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兵庫県尼崎市にオープンした、多胎家庭のママパパが集い、交流したり相談したりできる居場所「ふたごハウス」。この場所でさまざまなことに挑戦し、理想的な居場所を少しずつ実現していきたいと考えています。その過程で、私、NPO法人つなげる代表理事の中原美智子が直面したさまざまな出来事を「『ふたごハウス』居場所づくりのトライアンドエラー」シリーズとして、お話ししていきます。
第4回目となる今回は、「炊いたごはんの提供にも営業許可が必要?」編。ここを訪れたママパパにコーヒーを淹れたい、ごはんを炊いてレトルトカレーを一緒に食べたい・・・と考えるも、これをするにもカフェ営業の許可をとる必要があるのでは?ということに・・・。まだまだ続く、トライアンドエラーについてご紹介します。
※これからお話しすることは「尼崎市での、私の事例」です。詳細は各自治体にお問い合わせください。
公衆浴場営業許可申請や防火対象物使用開始届出のほかにも、共有したいと思った経験を2つお話ししますね。1つ目は「コーヒーとカレーの提供のこと」、2つ目は「内装のこと」です。
まず、1つ目の「コーヒーとカレーの提供のこと」について。
多胎家庭のママパパは、日常の中でゆっくりとコーヒーを飲む時間をなかなか持てないので、「飲みながらくつろいでもらえたらいいなぁ」「カフェインレスのコーヒーをここで淹れられたらいいよね」「みんなで一緒に夕食を食べることができたらわいわい楽しいし、日々の孤独感や負担を少しでも軽減できるんじゃないかな」「ごはんを炊飯器で炊いてふるまって、あとはレトルトのカレーを温めよう!」と考えていました。
カレーについてはほぼ実費のみ負担してもらう形で考えていたので問題ないかなと思いましたが、コーヒーについては仕入れの費用がかかるので、「カフェ営業になるのかな?」「飲食店の営業許可をとらなあかんかな?」と気になって、尼崎市保健所生活衛生課でカフェ営業のことも聞いてみたんです。
すると、コーヒーの提供も沐浴と同じで、反復継続するものは「業」になるので、有料・無料は関係なく許可をとらなければならないとのことでした。
さらに、カフェ営業の場合は「シンクは食材と食器の洗浄を別々に行えるように、2槽以上必要」「水栓は洗浄後の手指の再汚染が防止できる構造であること」など、細かな条件があるんですね。カフェがしたいわけではなく、ママパパにコーヒー1杯淹れて出したいだけで、そんなにも設備投資しなければならないなんて・・・と思いました。
その流れで、「子どもにレトルトカレーを食べさせたいので、お米を炊いて渡したいんですが・・・」と伝えると、それも同じ理由から営業許可が必要だと言われて、「え? 本当に!!」とびっくりしました。
そこで、「多胎家庭のママパパの居場所づくりという福祉的な視点から、ここでみんなと一緒にごはんを食べたいんです。子ども食堂に近いイメージなんですけど」と伝えると、子ども食堂の説明をしてもらえました。
子ども食堂の営業許可や届出などの必要性については、保健所に規模や取り組み内容などを伝えて判断してもらいます。もし、営業許可や届出などが必要になったら、カフェ営業などに求められる設備は整えなくてもいいものの、衛生管理の手法「HACCP」に沿って計画を考え、記録していかなければならないとのことでした。
ふたごハウスの場合は、「営業許可や届出などの必要性はない」「ただし、食中毒等が起こらないようにHACCPに沿って衛生管理を行う」ということになりました。
子どもたちにカレーを提供することは、問題なくできるようになったんです。
営業許可について、もう1つ! 「ここにおふとんを敷いて、ママパパに昼寝してもらいたい」と思っていたんですが、それをするにも今度は旅館営業の許可をとる必要が出てきたんです。公衆浴場営業許可の現地確認で、保健所の担当者が来てくださった時に教えてもらいました。いろいろな法律がありますね。昼寝については、どうするのか、まだまだ考え中です。
2つ目は「内装について」。
この場所は、前に住んでいた方がきれいに使っておられたので、ほぼそのまま使用できる状態でした。ただ、建物が古くてにおいが気になりました。子どもたちが来るので空気をきれいにしたいと思い、壁を塗り替えることにしたんです。
そこで、尼崎市にあるDIYパーツや塗料、リメイク家具のお店「GASAKIBASE」の足立繁幸さんに相談。壁に漆喰を塗ることにしました。
最初は自分たちで塗ってしまおうと思っていたのですが、内装づくりからみんなに関わってもらうことで、「自分でここの壁を塗ったんだ」と愛着を持ってもらえたらいいなぁと考えました。地域サークル「尼崎ふたごLINE」のゆいさんに頼んで、ご家族に集まってもらい、GASAKIBASEの足立さんのもと「漆喰塗りのワークショップ」を開催。2023年1月8日・9日の2日間で部屋を塗っていきました。
そうそう! 内装費については、尼崎市創業支援事業の補助金が出ることがわかり、2022年12月28日に急いで提出。工面できることになったので、とても助かりました。
壁の漆喰塗りに加えてもう1つ手を加えました。ふたごハウスには、たくさんの多胎家庭のママパパ、子どもたちが訪れるので、個人情報に関する書類などを保管する「鍵付きの部屋」をつくることにしました。
「鍵付きの部屋が必要」というルールはないですし、個人情報に関わる書類などは置いていませんが、個人情報保護法では鍵付きの棚・キャビネットを用意する必要があるので、ある方がいいかなと考えたんです。
ここで困ったのが、ふたごハウス内の扉の多くがふすまだったこと。ふすまで仕切られている部屋を、鍵付きの部屋にすることは難しく、すんなりとはいきませんでした。開き戸はオリジナルの扉&枠で解決できたのですがふすまはそうはいかず、「ベニヤ板で打ち付けるしかないのかな」「でもそうするとエアコンの風を全体に循環させられなくなるから各部屋に設置しなくてはいけなくなるな」「そこまでの予算はないからどうしようかな」などといろんな思いや考えが駆け巡りました。
いろいろ調べてみましたが、いいアイデアは浮かばず。GASAKIBASEの足立さんに相談したら、昔よくあった「横へスライドしてガラガラっと開ける扉」で使われていた鍵を見つけて、取り付けてくださったんです。
これらが内装を整える上での大きな出来事でした。
振り返ると、「お風呂付きの物件で、保護者もいる環境下で、ただ沐浴のお手伝いがしたい」「ママパパにゆっくりとくつろいでほしいから、カフェインレスのコーヒーを1杯淹れたい」「みんなで一緒に夕食を食べたい」と思っただけなのに、次から次へといろんな問題点が出てきて、驚きと大変さの連続でした。
でも、制度はみんなの安全を守るためのもの。たとえば、火災や災害があった場合、この人数だったら安全に避難できるだろうなどと考えられているものだから、守るべきルールは守っていきたい。それがここに訪れるみんなやまわりの人たちの安全・安心につながるものだからこそ前に進んできました。
ふたごハウスはオープンしたばかり。これまで多胎家庭のママパパから聞いてきた、双子や三つ子を育てているから諦めざるを得なかったことを、ここでできるようにしていきたいと思っています。これからも、いや今も、いろんな紆余曲折やトライアンドエラーがあります。「そんなことを知らなかった!」「こんなことがあるなんて!」「知らなかったら、そのまましちゃっていたかも」「後でこんなことにも気づいてしまいました・・・」という発見を引き続き、共有していきますね。
私のこの経験が、これを読んでくださった誰かが一歩踏み出すきっかけになったり、「もしかしたら、今までこうしてきたけど、みんなの安全・安心のために許可申請などが必要かも?」など気づくきっかけになったりしたら嬉しいです。
「『ふたごハウス』居場所づくりのトライアンドエラー」シリーズ
「プロローグ」編
「一歩を踏み出そうと心を決めるまで」編
「沐浴だけど銭湯?! 公衆浴場営業許可申請」編
「防火対策は大丈夫? 防火対象物使用開始届出」編
「炊いたごはんの提供にも営業許可が必要?」編 (現在の記事)