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兵庫県尼崎市にオープンした、多胎家庭のママパパが集い、交流したり相談したりできる居場所「ふたごハウス」。この場所でさまざまなことに挑戦し、理想的な居場所を少しずつ実現していきたいと考えています。その過程で、私、NPO法人つなげる代表理事の中原美智子が直面したさまざまな出来事を「『ふたごハウス』居場所づくりのトライアンドエラー」シリーズとして、お話ししていきます。
第1回目となる今回は「一歩を踏み出そうと心を決めるまで」編。どうして居場所をつくろうと決心したのか。その一歩を踏み出すきっかけ、ここで何をやりたいと考えたのかなどについてお伝えします。
※これからお話しすることは「尼崎市での、私の事例」です。詳細は各自治体にお問い合わせください。
この場所との出会いは、女性クリエイターズチーム「ココスキ」の坂本恵利子さんが「REHUL事業(地域活動を行う団体等に市営住宅の空き室を提供するあまがさき住環境支援事業)で拠点を持った」というFacebookの投稿を見て、「いいやん!」と興味を持ったことが始まりでした。それが2022年9月23日のことです。
今すぐにしたかったわけでもないのに、気になって、坂本さんからREHUL事業の担当者を紹介していただき、10月6日には現・「ふたごハウス」の尼崎市営住宅を内覧に行きました。
行ってみると、日当たりのよさと心地よい風の通り方、ベランダの向こうに広がる市営住宅内の小さな公園など、開けた感じがいいなぁと思いました。近くの学校から、学生の生き生きとした声やブラスバンドの練習音が聴こえてくるのもすごくよくて、この場所が持つ雰囲気に心が惹かれたんです。
ただ、すぐには借りることはできませんでした。1カ月が過ぎたころに「オレンジリボンフェスタ2022 in あまがさき」で、ふたごじてんしゃの試乗会を行いました。
この日は、多胎家庭のママパパがベビーカーを一所懸命に押してブースに来てくれたんです。ママパパたちがここで集い、大変さやしんどさも含めて多胎育児について話して、互いにエンパワーメントしている姿がありました。それを見ていたら、イベントなど特別な機会だけではなく、日常的にこんなふうに集まれる居場所があったらいいのになぁと思ったんです。
それをきっかけに、これまでのいろんな思い出や出来事、声が、わたしの中でつながっていきました。
わたしが双子を産んだ時、育児書などを読むと「お天気のよい日はおさんぽに行きましょう」と書かれていて、そのことがプレッシャーになっていました。
双子の育児の話は、双子や三つ子のママパパの参加が少ない子育てひろばではしにくいし、ショッピングモールに行ってもいつ泣いてどうなるかがわからない。電車にも乗りにくい。ただ、「しなければならない」という気持ちから、近所をあてもなくさまようしかなかった日々はとてもつらいものでした。
そんな経験から、双子や多胎サークルのような、誰かと話せる自宅以外の居場所があることの大切さを感じていました。
一方で、サークルを運営されている方々にお話を聞くと、「運営や広報が大変」「会場を借りるのにも費用がかかる」「引き継いでくれる人が見つからない」「当日手伝ってくれる人や運営費をどうするかといった問題が常にある」など継続していく困難さがあることがわかり、閉鎖せざるを得ない状況だということを知ったんです。
どうすれば、サークルが活動を続けていけるのだろうと考える中で、NPO法人つなげるで「尼崎ふたごLINE」という地域サークルを立ち上げました。尼崎市の「あまらぶチャレンジ事業(地域の課題解決や魅力向上に向け、広域で行う公益的な事業について経費の一部を市が補助)」に応募。各地の子育てひろばの協力を得て、集まっておしゃべりをしたり、お弁当を持ち寄って夕食を一緒に食べたりする「ふたご会」を開催していきました。
また、これまで出会った多胎家庭のママパパから、「双子の沐浴が大変で、まるで地獄のよう」「沐浴をどうやってしたらいいかがわからない」「寝不足で毎日ボロボロ。少しでも昼寝ができたら救われるんだけど」など、日々の暮らしの中での悩みや困り事、不安をたくさん聞いてきました。
これを少しでも解決できるように、希望があれば地域の保健師やサークルへとつないできたものの、多胎家庭のママパパが必要としていることが現在の制度や支援ではカバーしきれていないことも痛感していたんです。
2016年7月に株式会社ふたごじてんしゃを設立した時には、この多胎チャンネルでもおなじみのイラストを描いてくれているイラストレーターのフワちゃんこと、佐野典世さんに、こんなイメージを描いてもらっていました。
ふたごじてんしゃの試乗会をしているそばで、多胎家庭のママパパが集まる場がある。そこではお茶をしたりして、のんびりゆっくりと過ごしてもらう。日々の子育ての話をして気持ちを分かち合い、それぞれがエンパワーメントされていく。会話の中で何か支援を必要としていたら、支援機関とつなぐ。そのための窓口が、同じ建物内にある。
わたしの中にあったそんなイメージを、この場所でなら実現できるかもしれないと思いました。
そんないろんな思い出や出来事、声が、わたしの中でつながっていって、この場所でやりたいことがどんどん膨らんでいきました。
前に公園があるから子どもたちが遊べるなぁ。お風呂もあるから沐浴も一緒にできるなぁ。ママパパにはおふとんを敷いて昼寝してもらうといいかも。長男が生まれた時に同じマンションのママと一緒に夕食を食べたことで孤独な気持ちがやわらいだんだよなぁ。つなげるのメンバーもみんなで夕食を食べたいと話していたしな。そんなことができたらいいなぁ。
すぐに決心がつかなかったのは、場所の不便さと維持・運営費の問題があったから。これまではいろんな場所で多胎家庭のママパパ向けの子育てひろばを開いてきたけれど、ここは1カ所で、しかも駅から遠いという不便な立地。ただでさえ移動が大変なのに、ママパパの負担を増やすだけじゃないかなって。NPO法人の事務所も維持しなければならないのに、2つも維持していくことはできるのかなって。
でも、ふたごじてんしゃをつくる経験から、やってみないとわからないことが多いとも感じていました。なので、この場所でふたごじてんしゃの試乗会などを開催することとして、株式会社ふたごじてんしゃから協賛金を出し運営するなどの方法で、できるところまでやってみたらいいやんと心を決めたんです。
オレンジリボンフェスから12日後の、11月18日に契約しました。
契約前後から、2023年5月までの大まかな流れがこちらです。
2022年
9月23日(金・祝) REHUL事業を知る
10月6日(木) 現地内覧
11月6日(日) 「オレンジリボンフェスタ2022 in あまがさき」で居場所をつくることを決心
11月18日(金) REHUL事業 賃貸契約
11月26日(土) 市営住宅の自治会長をはじめ、ご近所さんに挨拶
12月28日(水) 尼崎市創業支援事業の補助金申請
2023年
1月8日(日)・9日(月・祝) 漆喰塗りのワークショップ開催
1月17日(火) 公衆浴場の営業許可をとる必要性が浮上
1月18日(水) 保健所に電話で確認。公衆浴場の営業許可をとる必要があると言われる
2月14日(火) 保健所に公衆浴場営業許可申請書を取りに行く
2月22日(水) 保健所に公衆浴場営業許可申請書を提出。カフェ営業等についても確認
2月25日(土) 「ふたごハウス」オープン
3月1日(水) 保健所による現地確認
3月2日(木) 消防署から依頼があり防火対象物使用開始届出書等を用意
3月3日(金) 消防署に防火対象物使用開始届出書等を提出
3月8日(水) 消防署による現地確認
5月16日(火) 公衆浴場の営業許可が下りる
次回は「沐浴だけど銭湯?! 公衆浴場営業許可申請」編。「お風呂場があるから沐浴のお手伝いをするんだー」くらいに考えていたところ、銭湯等を開業するのに必要な公衆浴場の営業許可をとらなければならないことが発覚。許可をとるべく、関係各所の協力を得ながら進めてきたことについてお伝えします。
「『ふたごハウス』居場所づくりのトライアンドエラー」シリーズ
「プロローグ」編
「一歩を踏み出そうと心を決めるまで」編 (現在の記事)
「沐浴だけど銭湯?! 公衆浴場営業許可申請」編
「防火対策は大丈夫? 防火対象物使用開始届出」編
「炊いたごはんの提供にも営業許可が必要?」編