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多胎育児の最も苛酷な時期は家庭によってさまざまですが、一般的には0~3歳の時期が挙げられることが多いようです。この時期をいかに乗り越えられるようにするかが、支援の大きなポイントになります。つなげるでは、多胎家庭のママパパが外に相談に出かけることが難しい状況を踏まえ、「双子ママ弁護士による多胎家庭向けオンライン無料相談会」を実施しています。一見すると、「双子のママである弁護士が話を聞いてくれる場」というだけの印象かもしれません。しかし、弁護士自身が双子ママであるからこそ理解できる、0~3歳の最も苛酷な育児の現実や日々の負担。その実体験に基づく支援は、相談者に安心感と具体的な判断力をもたらしています。寄せられた相談や浮かび上がった課題をもとに、多胎家庭を支える上で欠かせない視点について、相談会の弁護士・知識弘恵さんと話しました。

弁護士 知識弘恵さん(写真左)
一卵性の双子(2015年生の男児)のママ。大阪市立大学法学部、同志社大学法科大学院卒。2010年大阪弁護士会登録、2023年兵庫県弁護士会に登録換え。現在、新神戸法律事務所所属。NPO法人つなげる正会員としても活動。
NPO法人つなげる 代表理事 中原美智子(写真右)

知識:まず、この相談会がどのように始まったのかを少しお話しします。LINEオープンチャット「ふたごのへや」を見ていると、夫婦関係の悩みに対して参加者同士でアドバイスをし合っている場面がありました。中には、法的な観点から見ると、思わぬトラブルにつながりかねない内容もあったのです。そこで、安心して相談でき、正しい知識や情報を得られる場が必要だと感じました。私自身、双子育児で困った経験がたくさんあるので、同じ多胎家庭のママパパの力に少しでもなることができたら・・・・・・弁護士としてお役に立てることがあるかもしれないと、中原さんにご相談したことが、この取り組みの始まりでした。
中原:多胎家庭のことを理解してくれる弁護士さんがいてくれたらと思っていたタイミングで、知識さんとつながることができました。そして、この相談会が始まったのが2023年2月のこと。2025年9月までに70名もの方々にご利用いただいています。
知識:ご相談を受ける中で強く感じることは、「多胎家庭だからこそ深刻化してしまう」ケースの多さです。相談者は0~3歳のママが中心。この時期は最も苛酷で、外出もままならず、孤立しやすいのが現実です。よくあるのは「パートナーが思うように子育てに関わってくれない」というご相談。中には、まったく関わらないわけではなく、協力的な場合もあります。しかし、いきなり2人の命と向き合うことになるため、パートナーに求めるハードルはどうしても高くなってしまうものです。出産前であれば、お互いに我慢や譲歩で乗り越えられていたことも、多胎育児は想像以上に大変ですから、心の余裕を失い、耐えられなくなってしまう・・・・・・こうした状況が「もう耐えられない」と感じるきっかけになり、ご相談につながっているのだと感じます。
中原:それまではなんとか、自分の中に押し込めていたものが、表面化しやすくなるのでしょうね。
知識:私自身の体験を振り返っても、子どもが0~2歳の時が一番大変でした。夫婦で協力体制ができていてもなお大変だったので、夫婦仲がぎくしゃくしていると、さらにしんどさが増すのではないでしょうか。
中原:そうした状況を訴えても、離婚調停の場では多胎児育児の大変さが理解されず。“わがまま”と受け取られ、パートナーは協力的だと見なされるケースも少なくないと聞きます。
知識:そうなのです。保育園の送迎や子どもの病気時の対応など、多少なりとも分担している部分があります。そのため、「離婚したい」と思いながらも、経済的な問題以外にそういった物理的な部分で、離婚して自分1人でできないと、現状で我慢せざるを得ないと考えている人も多いのです。これが、子ども1人であれば、「離婚して1人で頑張ろう」と思えたかもしれません。しかし、双子であるからこそ、どうしたらいいのかがわからず、行き詰まってしまうケースが少なくないのです。
中原:一方で、多胎シングルママのお話をうかがうと、双子を妊娠しているとわかった途端に、パートナーが離れてしまったというお話も。子どもが2人になることでかかる費用も倍になりますから、経済的な不安が強くなるからではないでしょうか。
知識:私も過去にそうしたケースを担当したことがあります。双子を出産するだけでも大きな不安があるのに、出産後の生活費がどうなるのかの見通しが立たないまま、出産に臨まなければならない方もいるのです。
中原:地方では特に、「ふしだらだ」と近所から噂されたり、自分の親からも疎まれたりして、地域のコミュニティに入りにくく、外出もままならないという話も聞きました。こうした話を聞くたび、胸が締めつけられる思いになります。出産後の選択肢も、子どもが1人であれば、比較的広がります。たとえば、保育園に入りやすかったり、ファミリーサポートも利用しやすかったり。しかし、たとえば双子の場合は、同じ保育園に2人同時に入る枠があるかどうかが問題になりますし、ファミリーサポートでも提供会員1人につき子ども1人の対応となるので、マッチングのハードルが高くなります。さらに、子どもが交互に熱を出すこともあるため、何日も仕事を休まざるを得ません。その結果、職場では「また熱を出したの?」「また休むの?」と思われ、働きにくくなってしまうのです。


中原:多胎家庭にはさまざまな状況や課題があります。その中で、担当の弁護士が双子のママであれば、双子育児の大変さや日々の状況を一から説明しなくても理解してもらえる・・・・・・その安心感は非常に大きいと思います。人生の重要な局面で、自分の思いや状況を理解してもらえず、周囲がみな敵のように感じられると、恐れや不安に押しつぶされそうになり、自分が納得できる選択のための判断力や行動力を発揮できなくなります。「わかってもらえた」という実感は、“子どもたちと生きていくために一歩を踏み出す力”に変わりますから。こうした出会いは、何ものにも代えがたいと思います。離婚調停の場でも、本人がどれだけ説明しても伝わず、進まなかったことが、知識さんが担当してくださった途端に状況が動き出したケースがあったと聞きました。
知識:たとえば、双子育児の大変さを訴えたことで、婚姻費用(別居後の生活費)の支払い期間が延長された事例があります。請求した時点からの支払いが基本ですが、双子育児となると、日々の大変さでそれどころではありません。「どうしてすぐに申し立てできなかったのか」を説明するため、つなげるが発信する多胎家庭の現状などの情報も添えながら、双子育児の現実を具体的に示した資料を提出したことがあります。たとえば、夜中に何回起きるか、おむつ替えは何回必要か、出かける準備にどれくらい時間がかかるかなど。そうした日々の細かな負担を具体的に示すことで、裁判所にも育児の実情を理解してもらいやすくしました。その結果、出産直後からの支払いで調停が成立したのです。双子育児、特に生後半年を1人で担う大変さは、経験していない人には、なかなか想像できないもの。だからこそ、具体的に説明し、イメージを持ってもらうことが大事と考えています。
中原:「2人が同時に泣いてしんどいんです」と話すだけでも、知識さんなら状況を具体的に想像してもらえますし、さらに「こういう時はどうされていますか?」と引き出してもらえるので心強いですね。しんどくて混乱していると、自分の気持ちや状況を整理して伝えることは容易ではありませんから。
知識:私自身、子ども1人を育てているママパパに「双子は大変」と話しても、完全には理解してもらえないことのほうが多かったです。たとえば、子ども1人なら泣いても、抱っこしてあやせますよね。しかし、2人が同時に泣いたら、2人とも抱っこすることはできません。泣き続けるわが子たちを前に、途方に暮れてしまうことが日常的で・・・・・・加えて、授乳やおむつ替え、沐浴など、1人で2人もとなると、どうしてもキャパオーバーになってしまうのです。そんな状況を共有できる双子ママパパに「大変だったよね」と一言言われるだけで、ぐっと理解された気持ちになれる・・・・・・その安心感は大きいと思います。
中原:相談後のママパパたちと接していると、結果がどうあれ、「自分が言いたいことをちゃんと伝えられたし、伝えきれない部分は知識さんが補ってくれた」と感じていることが多いです。本人自身が納得してここまでたどり着いたのだという、確固たるものを持てているように思います。
知識:私は最初に「こうなる可能性があります」と見通しをお伝えしています。特に、期待通りの結果にならなさそうな場合ほど、終わった後に本人が納得できるかが大事だからです。必要に応じて、気持ちや思い、これまでの経緯を時系列や項目ごとに整理した書面を作成し、提出することもあります。書面を通じて、パートナーや裁判所にも状況を理解してもらえる効果もあります。もちろん、一方的な視点なので、時にはパートナーが怒ることもありますが、それでも本人の感情や状況が整理され、前に進むきっかけになることが多いです。


知識:相談を受けていて強く感じるのは、最も大変な子どもが0~3歳の時期をいかに乗り越えられるかどうかが大事だということです。子どもは成長していきますから、この大変な時期がずっと続くわけではなくて、やがてぐっと楽になる瞬間が訪れます。私自身は、0~2歳の時期が特にしんどくて、小学生になってからようやく一山越えられたのかなという感覚です。
中原:生まれてまもない時期ほど「命を預かっている」という重圧をより強く感じますよね。中には、夫婦が仲良くて、協力して育児ができていたとしても、パートナーがうつになってしまったというお話も聞きます。その場合、双子の育児に加えて、パートナーのケアや仕事まで1人で背負わなければならず・・・・・・そんな状況に追い込まれてしまうことが、つらいし、なんとかできたらといつも考えます。
知識:「夫が『双子だから』と育児休暇を長めに取った結果、うつになった」というお話を、私も何件か聞いたことがあります。それくらい双子の育児は苛酷です。
中原:我慢を重ねてどうしようもなくなる前に、せめて夫婦でカウンセリングができるような場があればと思っています。日本にはまだ、そうした文化は十分に根付いていませんが、どちらか1人が頑張りすぎることも我慢しすぎることもなく、お互いの置かれている状況を知ってもらえるのではないでしょうか。また、子どもをシッターさんに預けて夫婦でデートに出かけるという時間が日常的にあればいいなとも思います。
知識:世間的にはまだ、それをよしとしない否定的な見方があるのでしょうか? 若い世代では変わってきているのでしょうか。
中原:若いママパパでも、子どもを預けて出かけることに罪悪感を抱く方は少なくありません。だからこそ、夫婦は同志ということで、夫婦一緒であれば、罪悪感も和らぐのではないでしょうか。


中原:相談会の相談者はママであったので、その事例をもとにお話ししてきましたが、家庭によってはパパが育児を主に担い、悩んでいる場合もあります。相談会は、性別に関わらず、多胎家庭のどなたでも利用してほしい場です。
知識:限られた時間の中でお話をうかがうので、1から10まで詳細に聞くことはできませんが、「次にどう動けばよいのか」を示すことが、私の役目だと思っています。たとえば、「しばらく様子を見たほうがいいのか」「今すぐ動き出したほうがいいのか」といった“次の一歩”を伝えるだけでも、相談者にとっては大きな指針となります。相談内容は、夫婦関係だけではなく、双子育児が理由で会社から退職を迫られる仕事の問題や、「法律事務所で働いてみたいんだけど、どんな職場ですか?」といった個人の関心まで、さまざまです。とにかくこの場を続けることを大事にしています。私自身の出産や子ども関係のことで忙しい時期には、相談枠数を減らしていただいたこともありましたが、どんなに細くても、絶対にやめない・・・・・・そう決めています。
中原:それがどれほど、多胎家庭のママパパにとって、心強いことか。知識さんと初めてお会いした時、「双子を育てながら弁護士を続けるのは大変だったでしょう」とお尋ねしたのです。すると、「『どんなに大変でも、この仕事は絶対やめたらあかん』と先輩からアドバイスを受け、とにかく辞めずに続けることをモットーにしてきました」とおっしゃいました。やめないと決めて続けることは、自分にどんな困難があってもこの場を守り抜くという宣言。その積み重ねが、多胎家庭にとって「いつでも相談できる場がある」という安心感につながっているのだと思います。

